理学療法

廃用症候群について(筋骨格系)

はじめに

こんにちは 鳩尾 です。

今回は、耳にタコで聞きなれた言葉、廃用症候群について少しだけ深堀していきます。

廃用症候群の定義

まず考えなくていけないのは、廃用症候の定義です。

現在、超高齢化社会へと時代が進み、医療の先進化が進行している日本において、非常に認知度の高い障害概念と言えます。言い換えれば、リハビリテーションに関わる職種に於いて、しっかりと 廃用症候群の定義 を正しく理解する事が重要と感じます。

 身体の低・不活動の結果、精神を含めた全身諸臓器に続発する二次的障害の総称

1) Hirschberg GC:リハビリテーション医学の実際 (三 好正堂 訳), 改訂第 2版. 日本アビリティーズ, 東京, 1980; pp32-43

とされています。

  • 精神を含めた全身諸臓器 である。
  • 続発する二次的障害 である。

という事です。全身諸臓器(精神も含む)で、二次的に障害するものという事です。言い換えれば、すべての事を廃用症候群の言葉に置き換えることが出来てしまう事に注意を払わなければなりません。

非常に多くの医療従事者に認知された万能の共通語である。それらは利点と称される一方、欠点としての側面もあるといえる。リハを含む多くの医療従事者にとって、良くも悪くも非常に引用しやすい概念である。

八幡徹太郎、染矢富士子、立野勝彦;臨床医にとっての廃用症候群とは何 か?:リハビリテーション医学,VOL.42 NO.10 2005;p696-701

ここで述べられているように、原疾患が隠れているのにも関わらず、廃用症候群のせいとしてしまう事がないように注意しましょう。

では、リハビリテーションで一番と問題になりやすい筋骨格系の廃用症候群について述べていきます。

筋たんぱく質合成率の低下

 筋肉はどれだけ廃用症候群で低下するのでしょうか。

 不動によるたんぱく質の合成低下、分解亢進により生じます。研究結果では以下の様に報告されています。

 平均67歳の被験者において 10日間の安静 により筋たんぱく質の合成率が

  0.077 ➤ 0.051

 と約2割減少すると報告されています。

引用:Kortebein P, Ferrando A, Lombeida J, Wolfe R, Evans WJ : Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults. JAMA 2007 ; 297 : 1772.1774

 10日でたんぱく質の合成率が2割減少するのは、客観的な研究の数値でも示されていますので、驚きですね。

筋線維の変化

 また筋力低下は筋組織によって変化の度合いが違う事も分かっています。

 廃用症候群は、姿勢保持や歩行に関連する 抗重力筋に生じやすく、特に遅筋(type1)線維に多く認められ、遅筋線維の速筋化 も認められる。

引用:Jpn J Rehabil Med 2007 ; 44 : 144.170

 サルコペニアが、加齢により速筋線維優位に萎縮するのに対して、廃用症候群は活動量の低下を要因に遅筋線維(姿勢保持、歩行)中心に生じるのがポイントです。

そうすると、以下の様に区別できるといえます。

  • サルコペニア:筋線維+横断面積の低下
  • 廃用性筋委縮:横断面積の低下

廃用性筋委縮は遅筋線維優位に生じるため、歩行や姿勢保持等の基本的動作への影響 が大きいといえると思います。

この病理的観察結果を臨床の場で区別する事は難しいですが、多くが サルコペニア+廃用性筋委縮が加わっている捉え方が正しいかと思います。

引用:Lexell J.:Human aging, muscle mass, and fiber type composition. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 1995;50A 11-16

廃用による筋力低下

 廃用による筋力の低下は数多く報告されています。その中から一部紹介させていただきます。

平均76歳の骨粗鬆症による圧迫骨折患者の 3週間の症状安静で全身の筋肉量が5%低下 した。

長町顕弘,遠藤 哲,日比野直仁,阿達啓介,宮武 慎:3週間の床上安静を負荷した骨粗鬆症性脊椎圧 迫骨折患者の骨密度,筋肉量,脂肪量の変化.中部日本整形外科災害外科学会雑誌 2004;47:105-106

 安静臥床により 筋肉量は1日0.5%減少、筋力は0.3~4.2%減少 した。

Wall BT et al:Nutritional strategies to attenuate muscle disuse atrophy.Nutr Rev71 :195-208,2013

など多くの報告があり、臥床=廃用症候群の発症のリスク は明確で、早期離床の根底となる理由となっています。一方で早期離床が、リスクを伴うケースもあるため、適切な医療的観点の裏付けをもとに慎重に進めていく必要がありますね。

骨密度の変化

筋肉だけでなく骨密度にも重大な変化を与えることが分かっています。

  • 骨粗鬆性脊椎圧迫骨折患者において 3週間の安静臥床により骨盤の骨密度が7.3% の有意な減少を認めた。
  • さらに 20週の安静臥床では30~50%の骨密度の減少 を認めた
  • 不動による骨密度の減少は骨吸収亢進により生じるとされており、低栄養状態など骨量現象の誘発要因がある方は骨密度の減少が進行しやすい
引用:Donaldson CL, Hulley SB, Vogel JM, Hattner RS,Bayers JH, McMillan DE:Effect of prolonged bedrest on bone mineral. Metabolism 1970:19:1071-1084

など、骨密度の減少の報告が散見されます。

この要因とされるのは骨代謝異常です。長期安静臥床により破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞のバランスが破綻し骨量が低下する事で、廃用性の骨粗鬆症が生じるとされます。この要因としては、骨の長軸上のストレスが減少する事で、カルシウムやリンの排泄が進むためと考えられています。臥床が始まり、大体2週間後には骨密度の減少が進み始めるとされています。

長期臥床が骨の長軸方向のストレスを減少させることで、生体はこれを骨量が必要でない状態と判断し、カルシウムやリンなどの排泄を促進し、臥床開始2週間後には骨密度の減少が生じる とされる

1)Greenleaf JE:Physiological responses to prolonged bed rest and fluid immersion in humans.J Appl Physiol,57(3),619-633,1984

まとめ

 廃用症候群の筋骨格系の変化を書かせていただきました。

 廃用性症候群の中でも筋骨格系の変化について、論文などで裏打ちされた知見で上書きを行い、臨床に役立てていただければ幸いです。

 読んでいただきありがとうございました。

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